完全なる同意
尊敬できる教師というものに出会える確率は、何パーセントくらいなんだろう?
幸い私はオーストラリアで、そんな教師に出会えた。
語学学校の講師、ポールである。
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私の英語力は低くはないが高くもなく、文法は理解できるものの、会話がさっぱりである。
語学学校では、予想より上のクラスに入ってしまって苦労しているのだが、しかし授業はおもしろい。
それは、明るいけれどちょっと渋めのインテリ、ポールの力だと思う。
オーストラリアでは長期休暇は当たり前に使われる権利であり、外国への長期の出張も珍しくないようで、ポールはミャンマーに英語を教えにいったり、日本に数週間旅行に来ていたり、ほかにもアジアの国々での滞在経験がある。
世界一周という経験が私を傲慢にしたのか、私はもう、実際にそこに行った人の発言しか信用できず、「中国って国は◯◯だから……」などと言っている人を見ると「アンタ、中国行ったことあんの?」と言いたくなってしまう。しかしポールの発言は実際に現地を見てのものであり、日々多国籍な生徒を相手にしていることもあって、説得力があるのだ。
彼は授業の中で、今オーストラリアや世界で問題になっている事柄を取り上げることも多い。
環境問題、同性婚、幼児虐待。
オーストラリアを美化せず、ときには現政権への憤りを口にしているのを見るとこう思う。
彼はオーストラリアのスポークスマンではない。
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ある日の放課後、私は今オーストラリアで大きな関心が寄せられている難民問題について、ポールに質問した。
その話の流れで、オーストラリアの現在の問題点について話が広がったのだが、レイシズム(人種主義)について彼は問題意識を持っていた。
オーストラリアはかつて「白豪主義」をとっており、とりわけアジア人を排斥した歴史がある。
私は思わず、
「日本にもレイシズムがある。日本人は同じ顔をしたアジア人を見下し白人をあがめる。私は理解できない」
と、たどたどしく言った。
するとポールも言う、
「白人が一番だと言っている人間もいるが、私は決してそうは思わない。どんな人種も、」
『「イークォール(equal)!」』
2人の言葉が重なったとき、私の頭には、世界一周中に出会った人々の顔が浮かんでいた。
ポールの頭には国籍多様な彼の生徒が浮かんでいたに違いない。
白人男性とそんな話をする日がくるなんて、思いもしなかった。
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私がオーストラリアの新聞を読んでみたいと言うと、翌日ポールは私に読み終わった新聞をくれた。
私はそれを解読するのを週末のタスクとし、英語と異文化を同時に学ぶ。
今はまだ、議論できるほどの英語力には程遠いが、十分に英語が話せるようになったら、ポールや国籍多様な仲間たちに聞いてみたい。
彼らの目には、この世界はどんなふうにうつっているのかを。
(さっそく本を買ってしまった。クリスマス用のラッピング、こちらは夏なのでスイカ柄)